アイリッシュ・フィルム・デー:心あたたまるアイルランドの一日

山陰日本アイルランド協会設立20周年・小泉八雲没後110年記念


山陰日本アイルランド協会は、今年で設立20周年を迎える。小泉八雲の『知られぬ日本の面影(Glimpses of Unfamiliar Japan)』の出版からちょうど100年目にあたる1994年に発足し、その後20年間、山陰を中心にアイルランドやケルトの文化、歴史、音楽などを中心にそれらを紹介するイベントを数々企画し、アイルランドと日本を結ぶ活動を行ってきた。

2007年から中国地方では初のセント・パトリックス・デイ・パレードを開催し(松江市との共催)、市内はグリーンで彩られ、毎年多くの参加者を得てアイルランド紹介の好機として継続している。

少し前まではアイルランドと言えば古代ケルト、伝説、妖精、IRA、移民、音楽、そしてもちろんラフカディオ・ハーンといったことがイメージできたが、1990年代にはケルティック・タイガーと呼ばれる驚異的な経済発展を遂げ、ユーロを導入し、本質的な部分は変わらないとしても、少なからずアイルランドは変化を遂げてきた。本会が設立された当時のアイルランドは、すでに「古き良き時代」と呼べるかもしれない。しかし、近年、バブルが崩壊し、国は経済破綻状態に陥った。そして今は、古いものに新しいものを融合させて新たな方向に向かって歩み始めているようだ。

アイルランド映画から現代のアイルランドとそのアイデンティティを感じることはできないだろか、またその中に流れるアイルランドの本質を感じ取ることはできないだろうか、またそれらを通してみるアイルランド人らしさとはなんだろうか、というのが今回の企画のテーマである。

アイルランド映画と言えば、歴史的な悲話やケルトの伝説、アイルランド移民というテーマが、いかにもこの国らしいという印象だが、今のアイルランドはそんなことばかりを引きずっているわけではない。むしろ、街角のラブストーリーや、ヒューマンストーリーなどに、「アイルランド」というエッセンスが加わり、宗教紛争の狭間に置かれる人々のどこまでも暗く悲しい描き方から、たとえ時代やテーマがそうであっても、ほのぼのとしたポジティブな表現へと変わってきているような気がする。

今回は、このような一味違ったアイルランドを知る機会として、心温まる作品を紹介していきたい。大寒を迎える2月、そして暗いニュースの多い昨今だが、身も心も温かくなるような感動を味わっていただければと思う。


上映作品

いずれも2010年以降にアイルランドをテーマとして作られ、アカデミー賞やゴールデングローブ賞にノミネートされた素晴しい作品です。


『ダブリンの時計職人(Parked)』

監督:ダラ・バーン
出演:コルム・ミーニイ、コリン・モーガン ほか
2010年/アイルランド・フィンランド/94分

ロンドンで時計職人として活躍していたのに職を失い、身一つで故郷ダブリンに戻って来た寂しい中年男フレッドを、名優コルム・ミーニイが温かく演じます。
彼は同じくダブリンが舞台になった大ヒット映画「ザ・コミットメンツ」でエルビスの大ファンであるお父さんを演じて有名になった人ですが、もちろんスタートレック他、ハリウッドでも大活躍している大変な俳優さんです。
コルム演じるフレッドは、失業保険を貰うこともできず、住む家もないので仕方なくダブリンの海辺の駐車場の車の中で、ホームレス生活を始めます。そこにドラッグにおぼれ家を出た少年カハルが「隣人」としてやってきます。年齢差もありながら、不思議な友情を育てる二人。真面目に正直に不器用に生きるフレッドの姿がとにかく心を打ちます。
原題の「Parked」を「ダブリンの時計職人」とした配給会社さんの宣伝はナイスだと思います。失業保険の窓口のお兄さんは不親切ですが、正義のために立ち上がるジャーナリストなど、ダブリンの町の優しさもそこここに。(野崎洋子)

『ダブリンの時計職人』

『ダブリンの時計職人』



『アルバート氏の人生(Albert Nobbs)』

監督:ロドリゴ・ガルシア
出演:グレン・クローズ、ミア・ワシコウスカ ほか
2011年/イギリス・アイルランド・アメリカ・フランス/113分/PG12指定(12歳未満の鑑賞には親の助言や指導を必要とする)

19世紀の貧しいダブリンにある高級ホテルで、ウェイターとして働くアルバートは、ほんとうは女性なのに14歳のときから男性として生きるしかなかった‥‥という実在の人物です。他人とはなるべく係わりを持たずに自分を殺しながら生き、そして死んで行くつもりだったアルバートが、本当の友人に出会い、少しずつ心を開いていく中で「愛する人と結婚して自分の小さなタバコ屋を持ちたい」と希望を持つようになります。
この映画で一番印象的なのは、グレン・クローズ演じるアルバートという、性別もお金も欲もすべてを超越した天使のような本当に美しい魂の存在です。彼女自身が30年かけて映画にしたいとそそいだ情熱が見事に実現し、最高に感動的な作品に仕上がりました。
映画のエンディングに流れるシネイド・オコナーの歌唱が美しく胸を打ちます。(野崎洋子)

『アルバート氏の人生』

『アルバート氏の人生』



『あなたを抱きしめる日まで(Philomena)』

監督:スティーブンスン・フリアーズ
出演:ジュディ・デンチ、スティーブ・クーガン ほか
2013年/イギリス・アメリカ・フランス/98分

あらすじ

カトリックの国アイルランドでは女性が結婚前に妊娠することは大変なスキャンダルでした。そういう女の子たちは修道院に強制的に入れられランドリー(洗濯所)で収容所のような生活をさせられるのです。こういったランドリーは、もちろん最近では社会問題とされていますが、実は96年まで存在していた…という驚愕の事実。だからこの映画に描かれている話は、本当に最近の話なのです。
フィロミーナを演じるジュディ・デンチがもう最高。ちょっと頭が悪いかもしれないけどピュアで可愛い、太陽みたいなアイリッシュのおばちゃんを演じています。そのジュディとの会話が最高に笑えるジャーナリスト役のスティーブン・クーガンはコメディアンで、俳優としても活躍しているばかりではなく脚本そして製作にも関わっています。
とにかく内容がこれだけシリアスなのに、話のテンポが良く、見ていて楽しく、非常に見応えのある大傑作と言えるでしょう。(野崎洋子)

『あなたを抱きしめる日まで』

『あなたを抱きしめる日まで』


野崎洋子トーク「アイルランド映画の魅力」

聞けば映画がもっともっと楽しめる♪

野崎洋子(のざき・ようこ)…1990年頃アイルランド音楽と出会い、その後国民的シンガー、メアリー・ブラックの日本公式代表を務めたことがきっかけでこの世界に入る。20年ほど前に、ケルト・北欧音楽など伝統音楽を日本に紹介するプロモーション・オフィスTHE MUSIC PLANTを立ち上げ、多くのアーティストを日本に招きジャパンツアーを敢行。いわゆるケルト音楽ブームの火付け役のひとりとなる。アイルランド映画を多数鑑賞し、アイルランド文化全般からのユニークな視点で作品を語る。

スケジュール

  • 10:30-12:10 『ダブリンの時計職人』
  • 13:00-13:20 野崎洋子トーク「アイルランド映画の魅力」(1)
  • 13:30-15:30 『アルバート氏の人生』
  • 16:00-16:10 野崎洋子トーク「アイルランド映画の魅力」(2)
  • 16:15-18:00 『あなたを抱きしめる日まで』

同時開催

タパタパカフェ

映画の合間にほっと一息つけるカフェを開店。タパタパプロデュースのオシャレなランチやスイーツをいただきながら、本を読んだり音楽を聞いたりと、一日ゆったりとした時間をお過ごしください。アイルランド・グッズも販売します。

アイルランド・フォト・ギャラリー

上映作品が生まれた国アイルランドの写真展。

料金

[3作品全通]一般:前売3,000円/当日3,600円
[1作品]一般:前売1,200円/当日1,500円 大学生以下:当日1,000円

チケット取扱

[松江] 島根県民会館、プラバホール、タカキ楽器店、今井書店グループセンター店、今井書店学園通り店、山陰日本アイルランド協会
[出雲]ビッグハート出雲
[米子]本の学校今井ブックセンター

お問い合わせ

Tel: 090-4109-5542  E-mail: info@sanin-japan-ireland.org (小泉) 
Tel: 0852-25-5713  Email: e-egao86@web-sanin.co.jp (中村)


主催:アイリッシュ・フィルム・デー実行委員会、山陰日本アイルランド協会
共催:松江市
後援:駐日アイルランド大使館、島根県、島根県教育委員会、島根県民会館、朝日新聞松江総局、毎日新聞松江支局、読売新聞松江支局、山陰中央新報社、中国新聞社、島根日日新聞社、BSS山陰放送、日本海テレビ、山陰ケーブルビジョン、エフエムいずも
協力:松江キネマ倶楽部、山陰映画センター、島根県立大学短期大学部松江キャンパス しまね地域共生センター

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