コージャス 第26号


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※本号の全文を公開しています。ただし、紙の会報(本会会員に配付)に限り公開している画像があります。ご了承ください。

2021年2月25日発行


    特集 COVID-19の時代を生きる




    特集 COVID-19の時代を生きる

    昨今の状況を誰が想像できたでしょう。
    これまでの常識がことごとく覆った2020年。
    みなさまご承知の通り、予定しておりました当会活動も、そのほとんどをCOVID-19感染予防対応により見直すこととなりました。
    そんななか、当会の企画にご参画いただき、各分野でご活躍いただいている方々から
    日々の暮らしのあれこれをお知らせいただき、特集としてお届けいたします。

    小人のソーシャル・ディスタンスのサイン! (ダブリン)  写真:山下直子


    アイルランドの魔法で「禍」を「金」に、というストーリーテリング
    酒井康宏

    Covid-19が猛威を振るい打ちひしがれたこの時こそ、アイルランドの魔法で皆様にエールを送りたいと思い、こんな物語を作ってみました。少しでも心が和めば幸いです。

    「2019年の末から世界中に猛威を振るった感染症がありました。人々は為すすべもなく困り果てておりました。そこへケルトの国から一人の仙人がやってきました。『私が「禍」を「金」に変えてさしあげましょう』と言ったとたん、大きなナベを持って来て、斐伊川の上流の水をためた湖の水を入れ、その中に昆布やワカメ、さらに活きのよい魚を入れぐつぐつと煮込みました。『どうじゃ、これを食べて元気を出すのじゃ』
    食べたとたん、人々は若返り、病が回復に向かいました。『なぜこのナベが感染症に効いたのか』と問うたところ、仙人は答えました。『ナベの中の活きのよい魚にはEPAやDHAといった成分が多く含まれており、海藻にはフコイダンという物質が多く含まれていて、免疫機能の暴走を予防する効果があるからなのじゃ』そう言うと仙人は灰色の黄昏(gray twilight)の中に姿を消してしまいました。」

    以来、人々はこの地山陰の地の利を生かした鍋料理を研究するようになり、「コロナ禍」という言葉は消滅し、新たに「(太陽熱)コロナ鍋」という言葉が誕生したのでした。
    お分かりになりますよね。「禍」という言葉の「示すへん」を「金へん」に変えれば、「鍋」という言葉になります。みなさんも「(太陽熱)コロナ鍋」を食べて免疫力を高めましょう!

    さかい・やすひろ……本会会長、元米子工業高等専門学校教授。


    距離への配慮
    出口顯

    北アメリカ五大湖地方に住むネイティヴアメリカンであるアルゴンキン系民族のあいだには、「結婚の毛布」なるものが存在していた。鹿皮で作り、豪華な装飾を施し、中央に穴をあけたこの毛布は、夫婦が生殖の営みをするあいだ、皮膚の接触を防ぐのに使われていた。生まれてくる子どもが奇形にならないようにする鹿皮は、男女がもっとも密着するときでさえ隔たりをつくりだすものとなっている。

    また彼らのあいだでは、秋から春の時期に若者は集落から離れた場所に隔離され、断食させられる。その間に上手くいけばサンダーバードという神話で語られる霊的な鳥が彼の元を訪れ、守護霊となってさまざまな儀礼的呪術的知識を彼に授けるという。しかしサンダーバードとのあいだに交わした取り決めは絶対に遵守しなくてはならない。

    肌と肌とが触れあう場でも隔たりが必要である一方で、普段は遠く隔たったいわば異次元に存在する神話伝説上ともルール遵守の上でのコミュニケーションは可能である。接近の中の隔たり、隔たりの中での接近。アルゴンキンのこの二つの例は、霊的存在も含めた他者や世界との間でいかに適正な距離を保つかという教えを説いている。

    海岸で尾鰭を外して休んでいた人魚の尾鰭を男が隠して人魚と結婚する。子どもが生まれるが、あるとき子どもが納屋で尾鰭を見つけると、子どもはそのことを母親に告げる。人魚は尾鰭を付け、子を残して海に戻ってしまう。羽衣説話と類似したこのアイルランドの人魚の伝承も、異類との間の距離の取り方を物語にしたものだろう。距離への配慮とは一つのモラルである。

    コロナ禍は未曾有の事態と言われるが何事にも先例はある。三密回避やソーシャルディスタンスが叫ばれる中、距離への配慮がある伝承の知恵に今一度耳を傾けてもよいのではないだろうか。

    でぐち・あきら……本会副会長、島根大学法文学部教授。


    新刊『ヨーロッパ古代「ケルト」の残照』(彩流社)への想い
    武部好伸

    一杯のウイスキーが発端となり、いつしかぼくのライフワークになってしまった「ケルト」。1995年以降、ヨーロッパ各地に点在する「ケルト」ゆかりの地を訪ね歩き、その成果を「ケルト」紀行シリーズ全10巻(彩流社)として上梓しましたが、まだまだ未踏の地があるのを知りました。そこで2010年から取材旅行を再開し、これまでの分を合わせてまとめたのが本書です。ケルト関連本では14冊目になります。

    ぼくは何でも物事のルーツを探るのが大好きで、「ケルト」についても原初的な様相を見極めたいと思っていました。それが執筆の理由です。切り口はオッピドゥムやヒルフォートといった古代ケルト人の居住地。13の国と地域の特徴めいた29カ所に絞り、現地で得たさまざまな情報を見聞記とエッセイのかたちで書き記しました。元新聞記者ゆえ、とことん「現場主義」に基づき、すべて自分の足で稼いだのが最大のセールス・ポイントです。ホンマ、体力勝負です~(笑)。

    サンタ・テクラ

    遺跡の多くがドイツ、フランス、スペインなどヨーロッパ大陸にあり、そこが「ケルト」の本家本元であることを裏づけています。「ケルト」といえば、アイルランドやスコットランドなどを思い浮かべますが、〈実像〉は異なっているのです。どの居住地もほとんどローマによって滅ぼされています。まさに「滅びの美学」……。そこにぼくは魅了されるのです。「ケルト」の妖精、音楽、美術などは出てきませんが、ヨーロッパの古層の一端を垣間見られると思います。

    コロナ禍で「Stay Home」を強いられた春先から執筆に没頭し、一気に書き上げました。その意味で、コロナをうまく利用できたと思っています。次回は『カナダ「ケルト」紀行』を構想しています。そのためにも、コロナよ、早う終息してくれ!!

    たけべ・よしのぶ……エッセイスト、関西大学非常勤講師。www.takebeyoshinobu.com

    武部好伸さんの新刊『ヨーロッパ古代「ケルト」の残照』(彩流社)

    ※武部好伸さんの新刊『ヨーロッパ古代「ケルト」の残照』の情報は、彩流社のウェブサイトと、武部さんのブログにも掲載されています。


    アーティストとして思うこと、できること
    小松大

    2020年という年はアーティスト人生の中でも忘れられない年となりました。

    全てのアーティストがそうであったように、3月初旬から数多くのコンサートやイベントが中止となりました。「自分の信じた音を奏で、オーディエンスと分かち合う空間」が寸断され、表現者としては辛い精神状態が続くこともありました。

    そんな中で愛知県の山間のまち「足助町」を舞台にした映像作品『Asuke 夏の音』を制作できたことが2020年の大きな財産となりました。豊田市の主催する接触を回避したアートプロジェクト「デカスプロジェクト2020」の助成を受け、足助町の自然や古い町並みとアイルランド音楽が融合する美しい映像作品をオンラインで発表しました。

    映像作品「Asuke 夏の音」より

    アイリッシュハープ奏者の大橋志麻さん、アイリッシュフルート奏者の瀧澤晴美さんと3人で出演と音楽を担当し、新緑の美しい香嵐渓(愛知県で一、二を争う紅葉の名所の一つです)や町中を流れる足助川の川べりなどでロケを重ね、クライマックスのシーンでは和紙で作られた行燈である「たんころりん」のゆらめく灯りのなかでリールを演奏しました。

    江戸、明治期の建物に響くアイリッシュハープやフルート、フィドルの演奏風景に、国内外から多くの賞賛のメッセージをいただくことが出来ました。

    映像作品「Asuke 夏の音」より

    1890年に小泉八雲が来日し日本の文化に強く惹かれたように、私たちもこの企画の制作を通してアイルランド音楽と日本の文化や風景との親和性を改めて強く感じました。新型コロナウイルスの感染拡大が収まったら是非、足助町の美しい風景を多くの方に見ていただきたいと思っています。21年の夏には足助町で自作曲「夕涼みのワルツ」を演奏することが、来年の目標の一つです。もちろん、お客様にステージを囲んでいただいて…。

    こまつ・だい……フィドル奏者、株式会社Ode代表取締役。ode-inc.com


    バンドにエイド
    野崎洋子

    2020年コロナ禍で海外の音楽家による公演がまったく催行されなくなり、私のかかえる小さな音楽事務所においても予定していた来日公演がすべて消えさるという結果になった。そして何よりもこの状況下で心配なのは演奏を収入の基盤としているミュージシャンたちの生活である。「バンドにエイド」はそんな音楽家たちを日本のファンの力でサポートしようというクラウドファンディングのプロジェクト。彼らの楽曲を集めたCDを制作し、売り上げを直接アーティストに分配することで彼らに日本から活動費用を届けようという企画だった。

    CD「Band Aid in Reverse」ジャケット

    CDのタイトル「Band Aid in Reverse」は、人気DJのピーター・バラカンさんに考案いただき、さらに「バンドにエイド」というナイスな日本語プロジェクト名は歌詞対訳を担当した通訳の染谷和美さんが考えてくれた。その他、音源のマスタリング(編集作業)から、ジャケット写真の撮影、パッケージのデザインにいたるまで、いつもTHE MUSIC PLANTがお世話になっている外部スタッフの素晴らしい作業を経て9月末にはCDが無事に完成する。こんな風にいつものチームで仕事ができたということ、そしてその成果がお客さんに認められたくさんの方々にクラウドファンディングに賛同いただけたこと、それによってアーティストたちに予定よりも大きな金額を送金できたことを、今あらためて感動ともに噛みしめている。参加したアーティストたちはまた日本に来て演奏をしたいという気持ちを強くしただろう。こういった誰かを応援しようという気持ちのつながりこそがまさに「ケルト」なのかもしれないと思う。まだまだ試練の日は続く。それでもみなさんと再びコンサート会場でお会いできる日を願いつつ…。

    「Band Aid in Reverse」には、2013年に松江で公演をした
    ルナサの楽曲も収されている

    のざき・ようこ……THE MUSIC PLANT。www.mplant.com

    ※「Band Aid in Reverse」の情報は、www.mplant.com/BandAid に掲載されています。


    変えられるもの、変えられないもの
    豊田耕三

    アイリッシュ音楽やダンスの醍醐味の一つは狭いところでぎちぎちになってセッションをし、踊ることだ。あの一体感は普通に日本に暮らしているとなかなか無い。しかし、今回コロナ禍でそれが仇となった。セッションは小規模でひっそりとがやっと、セットダンスは壊滅的、ライヴもお客さんとの距離が近い分懸念されて中止されるケースが多い。フェスティバルやツアーは勿論全て中止で計画を立てるのも憚られる。レッスンに来ていた生徒さん達を見てもセッションという文化の核がごっそり抜け落ちるとモチベーションそのものが下がってくるのがはっきりわかり、アイリッシュに限らず長期化すると死滅するような文化も出てくるのではと危機感を覚える。

    Pub Matt Molloy’sでの著者とMatt Molloy氏らのセッション


    Toyota Ceili Bandのセットダンスケーリー

    そのような中で得たものもある。立ち止まる時間ができたお陰で自分のライフスタイルを見直すことができ、家族との時間も増え、健康的な生活を送れている。音楽についても今までより練習にじっくり取り組め、演奏技術は底上げされた。さらにライヴ配信、レッスン動画、ポッドキャスト、自宅でのレコーディングなど、今まで手を出してこなかった領域でトライを重ね、新しいスキルを身につけ、活動の視野は広がった。

    しかし、無観客の配信ライヴは、お客さんの前で直接生で演奏して起こる濃いコミュニケーションには遠く及ばない。レッスン動画の配信やポッドキャストがどのような効果をもたらすかがわかるのは何年も経ってから、あくまで長期的で間接的である。本来目の前にあって欲しいリアクションが、コミュニケーションが、コミュニティがごっそりと抜け落ちている。これこそが自分が長い間しがみついてきたものであり、どれだけ新しい生活様式を叫ばれようと欠くことができない核なのだろう。やはり直接人とふれあって踊り、狭いところでギュッとなって演奏する喜びに浸りたいのである。

    とよた・こうぞう……アイリッシュフルート・ティンホイッスル奏者。www.kozo-toyota.com | lin.ee/xZBeAdB | twitter.com/ozoktoyota


    The Enmusubi of Ireland
    アンソニー・ケリー

    松江市のアイルランド国際交流員として、アイルランドと松江市・出雲地域のつながりや共通点を日々感じています。人々の気質、景色(特に海岸)、伝説や昔話などがよく取り上げられますが、私は縁結びという大事な共通点について紹介したいと思います。

    縁結びの国であるこの地域ほどではありませんが、実はアイルランドも欧米圏の中でロマンスと運命の国のイメージがあります。寒くて、典型的なハネムーンスポットにとても見えないアイルランドがたくさんの新婚夫婦を迎えるのはそのおかげかもしれません。

    ロマンスの国としてのアイルランドのイメージは、おとぎ話と古代の伝統に基づいていると思います。古代ケルト神話には愛のすべての形と言われる恋愛、友情、忠誠がテーマの話が多く、縁結びのお祭りもあります。ハロウィンの起源のサウェンと並び、四季の祭りの1つ、ルナサという大事なお祭りがありました。ルナサは、秋の始まりと共に人々のつながりを祝うもので、男女が出会うためのイベントもありました。今でもいくつかの地方にはルナサに基づいた祭りがあります。中でも毎年9月に行われるリスドゥーンバーナのマッチメイキングフェスティバルが一番有名で、1ヶ月で約4万人が訪れると言われています。

    さらに、伝統工芸品であり国のシンボルの1つでもあるクラダリングからアイルランドのロマンチックな一面が見えると思います。王冠が載ったハートを両手で持つ形で、前述の「愛の三つの形」を表すとされています。ハートは「恋愛」、王冠は家族や国への「忠誠」、両手は「友情」(コージャス)です。着け方にも面白い伝統があり、はめる指とハートの向きによって、恋人募集中、交際中、既婚など意味が異なりますので、着けるときにはぜひ調べてみてください。

    クラダリング

    総じて、アイルランドの「ロマンスと運命の国」というイメージは、長い歴史と古くからのおとぎ話と神話、それらを大切にする人々と、それらに影響を与えた美しい景色が由来となったと思います。その全てが出雲地域と小泉八雲の出生地ギリシャにも共通します。偶然かもしれませんが、考えれば考えるほど、これも縁結びのご利益だと信じられるようになります。

    Anthony Kelly……松江市国際交流員。ダブリン市出身。


    ラフカディオ・ハーンがみた感染症
    小泉凡

    昨年は、思いがけず世界中が新型コロナ・ウィルスに遭遇・震撼し、従来の価値観やライフスタイルに大きな変化がもたらされました。でも、人類の歴史を1メートルとすればウィルスの歴史は10キロの長さ。人間の都合による自然開発や温暖化で未知のウィルスとの遭遇機会も増加していることを思えば、受け入れざるを得ない出来事だったのだと感じます。

    ラフカディオ・ハーン自身も、生涯で2度、感染症に倒れます。

    1885年4月中旬のこと、ハーンは友人チャーリー・ジョンソンとフロリダに出かけ、旅行中にマラリアに罹患。ニューオーリンズに戻ってから2週間、高熱にうなされ病臥します。その際、マーガレット・コートニー夫人の献身的な看病により危機を脱するのです。夫人は、同情心と母子愛に富むアイルランド系女性で、同じアイリッシュで記者として活躍するハーンにエールを送っていました。ハーンも夫人を敬愛し、彼女が営む下宿で三度の食事をし、「わたしは心身ともに健康を回復しました。これなくしては文学作品はただの一篇たりとも書きあげられません(1877年3月14日付)」という感謝の手紙も残しています。尊いアイリッシュの絆が生還をもたらしたのです。

    マルティニークでの天然痘大流行の体験は英文で40頁に及ぶリポート「天然痘」(『ハーパーズ・マンスリー』、1888年10月号)として発表されます。ハーンがそこに見出したものは、感染者をバッシングする人々の姿とは対極のものでした。遠方に住む親戚の罹患者の看病に駆けつける娘たち、感染した両親に先立たれた子どもたちを引き取って育てる店の女主人マム・ロベール。人々の底抜けの勇気とやさしさでした。ハーンは天然痘の罹患からは免れましたが、その後、腸チフスにかかり、6週間も病臥します。この時は、シリリアという地元女性の献身的な看病で一命をとりとめます。

    さらに松江では、熊本へ去る5日ほど前に勤務先の島根県師範学校でコレラのクラスターが発生し、不安の中での出発となります。神戸時代の作品「コレラ流行期に」(『心』)には、「衛生法は残酷なものでなければ意味がない」とも書いています。自らの罹患体験からか、来日後は高い衛生観念をもち、帰宅時と執筆を終えた時には、必ず手洗いと嗽を欠かすことなく、家族にもその大切さを伝えていました。感染症や怪談、妖怪など、ハーンは人間の恐怖と不安の対象から多くを学んでいたのです。

    こいずみ・ぼん……本会副会長、小泉八雲記念館館長、島根県立大学短期大学部名誉教授。


    小泉八雲をアイルランドから発信する—YAKUMO 紙芝居・ビデオ化プロジェクト
    大倉純子

    2017年春、私はアイルランドでより広く、多くの人に八雲の作品に親しんでもらうにはどうしたらいいか、考えあぐねていた。

    そんな時、“遭遇”したのが八雲会発行「新・小泉八雲暗唱読本」。「これだ!」と感じた。コンパクトな形に編集された八雲の作品がたくさん収められている。

    八雲会から翻訳許可を得て、こちらでは英語・アイルランド語二か国語版として発行することにした。

    英語が100%通じる国で、なぜアイルランド語か?

    ご存じかと思うが、アイルランド語話者は植民地支配を通して劇的に減少した。だが現在、アイルランド島内のみならず、本国人口の10倍と言われる海外のアイリッシュ系の間でも、自分達の言葉を取り戻そうという機運が高まっている。

    私は、八雲の故国の言葉で彼の作品を味わってほしいと思ったのだ。

    後からわかったことだが、八雲作品のアイルランド語訳出版は世界で初めてとのこと。

    こうして2018年末、「暗唱読本」アイルランド版“SAYONARA”が、Coiscéim社から出版された。たくさんの方々のご助力で、ダブリンの「エキスペリエンス・ジャパン」、東京のアイルランド大使館、トラモアの八雲記念庭園などで出版記念会を開催することができた。

    さて、では、次にこの本の内容をどう広めるか?

    友人の助言は“KAMISHIBAI”。

    紙芝居‥この愛すべき日本の伝統芸能を米国人に思い出させてもらうとは!

    これは素晴らしいアイディアだ。手軽に持ち運びできる。協力してくれるイラストレーターも、英・アイ語バイリンガルのナレーターも、効果音を添えてくれる和楽器奏者も身近にいる。

    「浦島太郎」と「雪女」は外せない。加えて「鳥取の布団の話」「猫を描いた少年」「若返りの泉」を紙芝居化し、19年秋から冬まで九公演をこなした。

    幸い好評で、子ども・大人問わず喜ばれた。日本とアイルランドの民話の類似性に驚いたという声や、アイルランド語の響きを聞けた喜びの声が寄せられた。

    紙芝居「雪女」


    紙芝居の上演

    20年度はさらに! ‥という矢先にコロナのロックダウン。欧州では来年度もほとんどのイベントがオンラインになるだろう。しかし、なんとかピンチをチャンスに! ということで、紙芝居のビデオ化を進めている。これなら地理的制限なしに見てもらうことができる。

    苦労がないわけではない。コロナ規制下での録音作業は相当大変だ。紙芝居の時とは違う工夫もしなくてはいけない。

    まだまだ試行錯誤中だが、困ったときは不思議と助け手が現れる。八雲が天国で手を廻してくれてるのかもしれない。

    おおくら・じゅんこ……North West Japanese Cultural Group。www.facebook.com/nwjapanesecg


    新型コロナ禍のアイルランドに暮らす
    山下直子

    ダブリン空港で日本からの観光グループをお見送りした3月2日を最後に、私の仕事は開店休業となりました。むこう数カ月いっぱいだたスケジュール帳が白紙になるのに、時間はかかりませんでした。それでも夏にはまた観光客が戻るだろう、きっと秋には…と楽観していた私たちはなんとナイーヴだったことでしょう。つい先日、長年の仕事仲間と公園を散歩しながら9カ月前を振り返って笑ってしまったほどです。(パブではなく、テイクアウトのコーヒー片手に屋外を「歩く」のがコロナ禍のダブリンの新社交スタイル!)

    アイルランドは2度のロックダウンを経て、12月前半には人口10万人当たりの新規感染者がヨーロッパいち少ないコロナ対策の優等生となりました。近隣諸国に比べICUの病床数の少ないこの国が医療崩壊せず持ちこたえているのは、地に足の着いた政府の対策(医療用防護用品の迅速な調達、手厚い休業補償など)と、日々の感染状況の情報伝達の的確さに加え、政府も国民も思いやりを忘れずに「ディスタンス(距離)を取りながら心を合わせる」ことを一貫して行ってきたためだと感じます。コロナ禍でウィルス以上に恐ろしいのは、心が害われること。初期の頃、新しい生活様式に不慣れでとまどっていた国民に、レオ・ヴァラッカー首相(現・副首相)は「自分の暮らしを自粛することは他者の命を救うことだ」と話しました。あの日以来、私はこの国の「命を守る一大プロジェクト」に参加し続けています。

    不要不急の仕事(観光業)の担い手である私のせめてもの役目は、自分の心身を守るべく、日々明るく元気に過ごすこと。感染拡大初期の半径2キロ圏内の行動制限下でほかに出来ることがなく始めたランニングは今や習慣化され、ヴァーチャル・マラソン大会の常連に。行動制限が緩和された夏には海や山へも出かけ、夏が繁忙期の観光ガイドにとって初のサマー・ホリデーが実現! 秋からの2度目のロックダウン時は、ソーシャル・バブル(注)の友人宅での週末の映画鑑賞が恒例に。赤々と燃える暖炉の前でどれほど楽しく笑ったことか。ご近所ともより知り合うようになり、世界は狭くなったけれど、足元に咲く小さな花をたくさん見つけました。

    (注)訪問し合える、互いに同意した特定の一世帯

    制限が緩和された夏に友人家族と。みんなアイスクリームが大好き!

    ダブリンは今、街中がクリスマス・イルミネーションに包まれています。今年ほどクリスマスが待ち遠しく感じた年はありません。家庭でのクリスマスのディナーに集えるのは3世帯まで。家族・親戚の多いアイルランド人には決して十分な数ではありませんが、せめても明るく乗り切ろうというムードがそこここに漂っています。風景もさることながら、それ以上に美しいこの国の人々の心がクリスマスのライトとなって輝いているかのようです。

    (2020年12月16日)

    クリスマス・イルミネーションは例年以上に盛大

    やました・なおこ……アイルランド公認ナショナルツアーガイド。ダブリン在住20年。著書『絶景とファンタジーの島 アイルランドへ』(イカロス出版)。naokoguide.com | www.guidingireland.ie


    Yumikoのサバイバル・クッキングレシピ

    アイルランドを拠点にエッセイスト、料理家などとして活動する松井ゆみ子さんのブログから、「ロックダウン中の特別企画」として連載中の「Yumikoのサバイバル・クッキング」のレシピをご紹介します。ブログの転載にご協力いただきましたクラフトショップ「ヒマール」さんに、心から感謝いたします。

    クラブケーキ
    Crab Cake

    コロッケみたいですが、油で揚げるのではなく、フライパンで “揚げ焼”(shallow fry)するのでお手軽です。ディルを使っていますが、パセリやコリアンダーなど、お好みで。

    形をととのえるとき、おにぎりを作る要領が応用できます。

    こちらでは、トマトレリッシュやタルタルソースを添えたり、ウスターソースをかけたりしますが、日本にはとんかつソースがありますもんね。

    即席タルタルソースは、ゆで卵と刻んだピクルスをマヨネーズで和えて。ケイパーを入れるとちょっとよそゆきになります。

    【材料】

    4個(2人分)

    • じゃがいも 300g
    • バター 小さじ1(5gくらい)
    • 小ねぎ 2本(みじん切り)
    • カニのほぐし身 100g
    • ディル(みじん切り) 大さじ1
    • 牛乳 大さじ1
    • 塩 少々
    • 薄力粉 大さじ1ほど
    • 卵 1個
    • パン粉 3/4カップ
    • オリーブオイル 小さじ1
    【作り方】
    1. じゃがいもを茹でてマッシュ、バターを加えてまぜる。
    2. 小ねぎ、カニのほぐし身、ディル、塩、牛乳を加えてよくまぜあわせ、4等分して形をととのえる。
    3. 薄力粉をはたき、溶き卵にくぐらせ、パン粉をからませる。
    4. オリープオイルをフライパンで熱し、3.の両面をキツネ色になるまで焼く。

    オレンジマーマレード&アイリッシュウィスキーのプディング
    Orange marmalade & Irish Whiskey pudding

    スティームドプディングとよばれる湯煎にかけて作るお菓子は、クリスマスプディングが代表格。失敗することが少ないのが大きな魅力。そして、あったかくて、おいしい。

    これも料理本でよく見かけるのに長年食べたことがなかった。おお! と感嘆する出来で。

    あつあつのプディングに、アイスクリームを添えるのもおススメ。

    【材料】

    争って食べる量の2人分

    • 300mlの生地がゆったり入る耐熱ボウル 1個
    • バター 50g+耐熱ボウルの中に塗る分
    • 三温糖 50g
    • オレンジマーマレード 50g+トッピング用大さじ2
    • アイリッシュウィスキー 大さじ2(お酒が苦手な方や子ども用には無しで!)
    • 卵 1個
    • 小麦粉 50g
    • ベーキングパウダー 小さじ1
    【作り方】
    1. バターと三温糖をまぜてクリーム状にし、マーマレードとウィスキーをまぜこむ。
    2. 溶き卵を加えて、小麦粉、ベーキングパウダーを足し、さっくりまぜる。
    3. 耐熱ボウルにバターを塗り、トッピング用マーマレードをまず底に入れ、2.の生地を入れる。ボウルに水が入らないようホイルで塞ぐ。
    4. 鍋にボウルを入れ、熱湯をボウルが半分かくれるまで注いで火にかける。沸騰してから40分茹でる。湯がボウル半分を下回ったら、湯を足すこと。竹串を刺してみて生地がついてこなければできあがり。あつあつを召し上がってください。

    Yumikoのサバイバル・クッキングレシピ……himaar.com/cooking
    協力:ヒマール(山口県岩国市) himaar.com


    巨人のシチューハウス2号店、“Little Ireland 松江”にオープン!
    アラン・フィッシャー

    みなさん、こんにちは。

    アラン・フィッシャーと申します。
    アイルランドのダンドークという小さな町から来ました。
    2008年9月から日本に住んでいます。

    私はアイルランド出身であり、私たちの文化を共有するのが大好きです。2015年2月、東京に小さなアイルランド料理店「巨人のシチューハウス」をオープンいたしました。ここは、アイルランド文化を日本の人々に紹介するための窓口として皆様にお楽しみいただいています。その後、2018年のセントパトリックデーにアイルランド製品の輸入販売部門として‘Kyojin Imports’を立ち上げ、アイルランドのクラフトビール直輸入を開始しました。そして私たちは全国の皆さまにアイルランド料理をお楽しみいただけるようオンラインストアのオープンも計画していました。コロナ禍を機に、2020年4月にこの計画を進め、巨人ストアを公開しました。

    少しずつですがビジネスがこのように成長するにつれて、東京の小さな店舗より大きな厨房と輸入製品の倉庫を見つける必要性が出てきました。

    松江で開催されているセントパトリックデーのお祝いパレード、ラフカディオ・ハーンと山陰日本アイルランド協会の強い文化的な繋がりについてアイルランド大使館より伺っています。妻と今後の方針について話した後に、私たちは松江を訪れ2店舗目をオープンできる可能性を調査することにしました。

    たった2日間の旅行でしたが、即決でした。アイルランド文化との繋がりと、出会った島根の人々の親しみやすさ、松江の素晴らしい歴史と自然の美しさは、ここが次のシチューハウスの拠点としてふさわしい場所であると私たちに確信させました。

    大きな挑戦ですが、事業所の移転とともに私たちも松江に移住できることを大変嬉しく思います。近い将来、皆様にお会いできることを楽しみにしております。

    Alan Fisher……巨人のシチューハウス オーナーシェフ。www.kyojin-company.com

    ※TSKさんいん中央テレビ(島根県・鳥取県)『TSK Live News イット!』(3/1放送)、BSSテレビ(島根県・鳥取県)『テレポート山陰』(3/11放送)で、巨人のシチューハウス松江店が紹介されました。

    Sanin Japan-Ireland Associationさんの投稿 2021年3月11日木曜日

     


    TOKYO MX『大使館☆晩餐会』カヴァナ大使夫妻 島根県の旅が放送

    収録:2020/12/14(土) 放送:2021/1/16(土)
    s.mxtv.jp/variety/taishikan_bansankai

    TOKYO MX(東京メトロポリタンTV)の番組『大使館☆晩餐会』収録のため、アイルランド大使夫妻が、ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)ゆかりの町松江を訪問されました。

    『大使館☆晩餐会』のロケ風景 写真提供:TOKYO MX

    アイルランド大使館が番組で取り上げられるのはこれが3度目。今回は、ポール・カヴァナ大使夫妻のリクエストで、アイルランドとゆかりの深い「小泉八雲」が愛した町松江でロケが行われました。夫人のローズマリーさんにとっては、今回が初めての松江訪問。みぞれまじりの冷たい雨が降りしきる中、松江城から始まったロケは、ハーンがたびたび訪れた城山稲荷神社、古い町並みが保存される塩見縄手の小泉八雲記念館と旧居へと続きます。記念館で夫妻を迎えたのは、ハーンの曽孫、小泉凡さん。番組MCのノブこと城田信義さんの軽快なお喋りとともに、和気あいあいとした雰囲気の中でロケは進みます。ノブさん、すっかりハーンのファンに。

    次に大使夫妻が訪れたのは、松江の文化発信に長年貢献してきた老舗喫茶店のMG。凡さんの行きつけのお店ということで選ばれたそうですが、夫妻はレトロな雰囲気に一目ぼれ。温かい珈琲と看板娘のあっちゃんの笑顔に癒されるひとときでした。

    『大使館☆晩餐会』のロケ風景 写真提供:TOKYO MX

    このあと、出雲大社、足立美術館、出西窯、玉造温泉などを訪れ、2日間の島根の旅は無事に終わったようです。雨が降りしきるアイリッシュ・ウェザーを除いては…(笑)。とはいえ、天候もよく似た松江とアイルランド。夫妻にとっては故郷を思い出すノスタルジックな旅にもなったようです。

    (Shoko)

    ※放送内容が番組公式YouTubeチャンネルで、part 1(小泉八雲記念館・旧居、MGほか)、part 2(足立美術館、出西窯ほか)に分けて公開されています。


    編集後記

    まずは、玉稿を賜りましたみなさまに厚く御礼申し上げます。本号が無事にお手元にお届け叶いまして、編集部一同安堵しております。そして、本号は「誌面もソーシャル・ディスタンス」を合言葉に、贅沢なレイアウトを試みました。デザイナー石川陽春氏の手になる「余白の美」を感じていただければ幸いです。

    さて、本年は順延になったあれこれのその後、我が事も他人事も気になるところです。そういえば、2021年の「海の日」は7月22日、「スポーツの日」は7月23日、「山の日」は8月8日に移動します。今お手持ちのカレンダーや手帳にご留意くださいませ。

    (H.T)

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